「一流企業の積水ハウス」と「悪徳企業かもしれない一条工務店」


前回、一条工務店が全館床暖房を導入した理由を書きました。単純に書くと「すべての顧客満足のためには全館床暖房以外選択肢が無いから」ということです。

では、他社はどうなのでしょうということで、今回は他社の経営戦略はどのようになっているのかを一条工務店と比較しながら書いてみたいと思います。

大手ハウスメーカーは上場企業がほとんど。

大手ハウスメーカーは、上場企業がほとんどを占めています。上場企業は株主から株価の上昇(=企業価値向上)を求められます。株主総会で経営陣が株主から責めを受けないために経営陣にとって株価の上昇(=企業価値向上)は必須命題なのです。

ここで問題となるのが、株主利益と消費者利益の問題です。一般的企業は消費者利益を土台として株主利益が成立しえます。

例に出しましょう。日本企業で数少ない増配を継続している企業に「花王」があります。花王の製品は、日用品でドラッグストアやコンビニ等日ごろ見慣れた商品を扱っている企業で、何度も購買をしているため、消費者も花王の商品についてよく知っているます。

花王の商品の利用者であれば、花王製品の良いところ、悪いところを詳細に説明できるのではないでしょうか。

では、大手ハウスメーカーの代表格、積水ハウスについて取り上げてみましょう。積水ハウスの社名は花王同様に多くの日本人が知っているでしょう。しかし、違いがあります。積水ハウスの商品である住宅について詳細に語れる人はいるのでしょうか。99%の国民は語れないでしょう。私も住宅について多く勉強しましたが積水ハウスの住宅について雄弁に語れる自信はありません。

ではなぜ多くの日本人は積水ハウスを知っているのでしょうか。
答えは簡単で、TVCMの効果です。
TVCMは良いイメージを植え付けることに非常に効果的です。夢のあるTVCMを作ることにより消費者の中に良いイメージを植え付けることができるのです。大手ハウスメーカーの広告宣伝費が非常に高いと非難されることがありますが、実は費用対効果は非常に高く、地域の工務店がチラシ作成等にかかる費用比率と比べても売り上げに対してはかなり小さいと言えます。
TVCMしているから高いは誤りで、そのほかの経費にお金がかかっているのです。

話を株主利益と消費者利益に戻しましょう。

上場企業は株主利益を最大化することが求められる

上場企業は株主利益を最大化することを求められる、当然です。花王は数少ない増配銘柄です。株主利益を数十年に渡り最大化し続けています。では、消費者利益はどうでしょう。

株主利益の源泉は、「売上-経費=利益」から生まれます。消費者利益は売上を上げることと直結していることは理解しやすいですね。

株主利益を最大化する方法(売上)

花王は、消費者からの支持を売り上げに変えてきています。消費者からの支持は何で作っているのでしょう。日用品メーカーである花王の消費者支持は「商品力」によってつくられていると言えます。TVCMも流しますが、TVCMを見て商品を購入したとしても「商品力」が無ければ売り上げは継続しません。

一方でハウスメーカーの例を考えてみます。ハウスメーカーの雄である積水ハウスの例を出しますが、積水ハウスに限った話ではありません。

積水ハウスも株主利益の最大化が求められています。そこで売上はどのように作られているのかを考えてみましょう。日用品である花王とは異なり、住宅は売上を作ることにおいて「商品力」に占める比重は多くありません。重点が置かれるべきは「建築工事請負契約数」を獲得すること、そして、工事単価を上げる事です。

「建築工事請負契約数」×「工事単価」=「売上」

となります。ここでは、「建築工事請負契約数」に絞って考えてみましょう。契約数を増やすにはどのような経営施策が考えられるか、花王と比較しながら考えます。

①「商品力」向上
花王…日用品で繰り返し購入が必須、「商品力」無しに売上の継続的向上は見込めない。
積水ハウス…住宅は一生に一度の買い物が一般的。仮に「商品力」に劣る商品であったとしても継続購入が無いため一度「建築工事請負契約」を獲得すれば売り上げ減少は発生しない。

②TVCM
花王…ブランド維持や新商品認知のためにTVCMを活用
積水ハウス…ブランド認知と商品力アピールのために活用

花王の場合は、消費者が商品購入を通じて商品知識獲得が可能です。
TVCMと商品力の割合で言えば商品知識獲得のTVCMの効果は相対的に小さくなる。

積水ハウスの場合は、商品購入を通じての商品知識獲得や、他社との比較が不可能。商品力に力を入れる必要は相対的に小さく、TVCMの効果が大きい。TVCMを最大限利用し「契約獲得」を行う方が効果的となる。

花王と積水ハウスの比較ですが、どちらが良くどちらが悪いというものではありません。両者ともに株主利益を最大化するために経営陣が考え得る最適な経営戦略です。

一方で、消費者利益の観点で考えると景色が少し変わって見えます。花王は商品力に力点を置かなければならず、積水ハウスは商品力ではなくTVCMに力点を置かなければならないからです。

積水ハウス(住宅会社)の商品を購入する際は、消費者が「商品力を見る目」が必要ということです。

次に費用の面を考えてみましょう。次の式を上述しました。

株主利益の源泉は 「売上-経費=利益」 です。

「経費」の面を考えてみましょう。経費、特に新規設備投資です。設備投資は「投資回収が可能であるか否か」を判断基準にして行われます。

多くの要素が絡み合いますが、企業の成熟度や外部市場環境によっても左右されます。ここでは、1990年代のユニクロ(ファーストリテイリング)と 積水ハウスを例に考えてみましょう。

1990年代後半のユニクロと現代の積水ハウスの比較

企業は企業自身の成熟度や市場環境に経営が左右されると上述しました。1990年代後半、ユニクロはフリースブームを作り出し一世を風靡しました。記憶にある方もいらっしゃると思います。その当時の企業成熟度と市場環境を考えてみましょう。

1990年代後半のユニクロ

①企業成熟度
フリースブーム以前のユニクロは「安かろう悪かろう」の代名詞のようなあか抜けない衣料品店でした。今では想像もつかないですね。私は当時、「ニュース23」という番組でユニクロが新しいことを始めるという放送を見て「安物衣料品店が一体何をするのだろう」と感じた記憶があります。その時100万でも株を買っておけば今では大金持ちですね。

1990年代後半のユニクの企業成熟度はほぼゼロに近い成長期の前半と言えるでしょう。

②市場規模
1990年当時には、日本にファストファッションというカテゴリはありませんでした。アパレルメーカーは存在していましたが、良品廉価ではありませんでした。ファストファッションという市場規模はゼロ(≒無限大)と言えるでしょう。

積水ハウス

1990年代のユニクロと現代の積水ハウスを比べるのはおかしいかもしれませんが、企業の立ち位置を確認する意味では良い比較対象ですのでご容赦ください。

①企業成熟度
積水ハウスは高度成長期の住宅需要が旺盛な中で大きく成長した企業です。人口が増え、多くの国民が住宅を欲する中でその期待に応えてきた企業と言えます。当時は「成長期」と呼ばれる時期で、投資も旺盛に行われ同時に売り上げも伸長していた時期と言えます。一方、現在は、積水ハウスは成熟期の企業です。過去に設備投資した資産を活用し、潤沢なキャッシュフローを生み出し続けています。株主としては投資が少なく、キャッシュフローが多い時期の企業で、リスクが少なく投資価値が高いと一般的には考えられる時期の企業です。

②市場環境
日本の注文住宅の市場環境は確実に縮小していく段階にあります。毎年の建築棟数が減少していくのを見れば容易に分かります。積水ハウスの市場成熟度でも書きましたが、設備投資は積極的に行えない環境と言えます。特に大手である積水ハウスは市場環境が縮小する中での積極的な設備投資は株主の理解は得られないでしょう。設備投資=キャッシュアウトです。市場縮小の中で投資回収は非常に困難と言えます。古い設備の中で利益着実に確保することが経営陣に求められるのです。

大手ハウスメーカーの未来

大手ハウスメーカーの市場が減少しているからもう駄目だ。それは間違いです。市場が縮小しているのは日本の注文住宅市場であって、それ以外には狙える市場はあるからです。

話は飛びますが、デジカメやスマホの登場で富士フイルムという企業はフイルムの企業ではなくなりました。企業が生き残るためには既存の事業や祖業を捨てることも時に必要であることを示しています。フイルムの企業として有名だったコダックが倒産し、富士フイルムが繁栄していることを考えると非常に対照的です。

積水ハウスの注文住宅事業はフイルム事業

積水ハウスの注文住宅事業は富士フイルムのフイルム事業ととらえることが出来ます。積水ハウスはすでに注文住宅事業から脱皮をし多角化を目指しています。フイルム事業のようにほぼゼロとなることは無いでしょうが、相対的に小さくなることは避けられないでしょう。

投資が行われない注文住宅事業が、消費者の要求する価値があるか否かは消費者自身が判断しなければなりません。住宅は100年の耐久性があります。100年後にも未だ価値が残るか否かは消費者が正しい目で判断すべきものです。

住宅業界のユニクロ、一条工務店

ユニクロと一条工務店は垂直統合型モデルという点で非常に共通点があります。一条工務店についても企業成熟度と市場規模の点で考察してみましょう。

①企業成熟度
一条工務店は歴史が浅く、特に2011年のi-smartの発売から急激に売上を伸長させている企業です。海外工場自体の歴史はユニクロ以上に長いものの、10年程度ユニクロから遅れて投資を活発化させていると言えるでしょう。今後も長きにわたって投資を継続していくのかは不明ですが、現在は成長期にある企業という認識は間違いないでしょう。

一条工務店は上場企業では無いため株主の意向に左右されることがありません。一方で「株主=経営陣」であるため、良い点悪い点両面があるでしょう。

良い点は、
・株主利益を軽視し、消費者利益に重きを置いた経営が出来る可能性がある。
営利企業であること、借入金の返済に対する責任があるので投資回収は経営判断に影響します。一方で、株主利益を考慮する必然が無いので思い切った投資判断などフットワークの軽い経営が可能です。

悪い点は、
・上場企業ではなく、財務内容が開示されないため、企業の資源が消費者利益に適切に配分されているのかが分らない。
一条工務店は本体はHRDというシンガポールの企業であるため財務内容が全くわかりません。

一条工務店(HRD)は悪徳企業なのか?

帝国データバンクなどで一条工務店の財務情報は入手できます。しかし、一条工務店は日本の販売代理店的な企業でしかないため本体であるHRDの財務内容の本質は全くわかりません。企業資源が消費者利益に大きく配分されていることは消費者が当然望むところですが、それを検証する手段が無いのです。
非常に良心的な企業の可能性もありますし、消費者利益を分配しない悪徳企業の可能性もあります。

一条工務店が悪徳企業の可能性は排除できません。一方で、悪徳企業(=消費者利益の配分の少ない企業)か否かは消費者にとって「手出しできない領域」でありどちらでも良いとも言えます。消費者は「手出しできない領域」を考えるより、対価に対して正当な消費者利益を提供しているか確認することが重要です。

これは、「積水ハウスが提供する消費者利益が適切か」の考え方とまったく同様です、「一条工務店が提供する消費者利益が適切か否か」を消費者が判断し選択すること以外にはありません。

積水ハウスであれ、一条工務店であれ株主利益やオーナー利益の過多は関係が無く、支払う対価と消費者利益が適切か否かを判断する以外には無いのです。

まとめ

積水ハウスは成熟期の企業であり、設備投資は控えられています。そのため新たな消費者利益を出しにくいことは事実です。一方で、それまでに積み重ねたもので価値を産み出せるのであれば十分に購入する価値があります。一条工務店は成長期にある企業で新たな消費者利益は産み出しやすいと言えます。一方で、財務内容の開示が無いため企業資源の消費者配分が適切か否かの判断は出来ません。

積水ハウスであれ、一条工務店であれ同様な点、それは…

支払いに対し、適切な消費者利益を提供しているかは
「消費者が判断できる」
ということです。
消費者が賢い判断さえすれば、適切な消費者利益が得られるのです。

答えはいつも同じ、

「消費者が勉強すること」

になります。


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